スピン偏極イオン散乱分光システム
こちらのシステムが開発されるまでは、最先端の分析技術でさえ、最表面のスピンを分析することは極めて困難であった。スピンを利用するデバイスとしてスピントロニクスの開発が進められていますが、表面・界面のスピン分析が不可欠であります。最表面とパルクでは、磁性がしばしば大きく異なります。
こういった背景の中、「スピン偏極He+イオンビーム」という新しいイオンビームが開発されました。このビームは最表面のスピンとだけ相互作用するので、この相互作用を利用することで最表面のスピンと構造の複合分析が可能となります。NIMSは、ビームの性能指標(ビーム偏極率)が世界最高であるスピン偏極He+イオンビームの開発に成功しました。今後このシステムによりスピントロニクス開発の飛躍的な進展が期待されています。
アプリケーション
- 表面科学の基礎研究 --- 組成・構造との相関
- 磁気デバイス(スピントロニクス)
トンネル磁気抵抗(TMR)... ⇒ メモリー(MRAM)・センサーへの応用- 磁気抵抗効果 ・・・ HDD読み出しセンサー、MRAMの情報読み出し
- ヘテロ界面スピン注入 ・・・ GMR・TMR・非局所MRセンサー、スピン注入磁化反転とそれを用いたMRAM
- スピン移行磁化反転 ・・・ スピントルクMRAMの書き込み
- スピン移行発振 ・・・ 発振型HDD読み出しセンサー
- 逆ファラデー効果 ・・・ ピコ秒光磁気書き込み
- 磁場による磁化反転 ・・・ 磁気テープ、HDD書き込み など
分析の原理
He+イオンは表面で散乱される際、最表面で電子を受け取りHe原子となる(イオン中性化)。ただし、中性化が起こるのは、He+イオンのスピンと最表面の電子のスピンの向きが反平行の場合に限られる(パウリの排他原理)。したがって、(A)ではHe+イオンは中性化されるのに対し、(B)では中性化が起きない。つまり中性化は最表面電子のスピンに依存するので、イオン中性化を経ずに散乱されたHe+イオンを観測することで、最表面の電子スピンを分析できる。
スピン偏極4H+イオンビーム
このビームは「表面」と「スピン」の双方に敏感です。NIMSでは独自技術の開発により、世界最高のビーム偏極率を達成しました。
P = 25 %
I = 5 nA
ビーム偏極率は従来比1.5倍以上になります。
スピン偏極He+イオンビームの発生方法
- 放電で、準安定 He原子(He* (23S1, 1s2s))を発生
- 光ポンピングで、 He*をスピン偏極(1083 nm)
- ペニングイオン化: He* + He* --> He+ + He0 +e-